表具店・横川伯鳳堂は島根県安来市で西陣金襽を使い掛け軸(掛軸)や古書画の仕立て直し、修復、しみ抜き、表装、表具、時代表装をしています。

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横川伯鳳堂

<唐紙(とうし)> 肌裏剥離の煤ムラのしみ抜き

2015年3月22日
修復前の御軸。袋表具。
御軸を拝見すると御本紙に煤汚れの濃いムラがあり多数の縦、横に折れもあり状態はよくありませんでした。
作者不詳ですが荒々しい波から空中へ飛び出した鯉と、水中を泳ぐ鯉が共に躍動感があり、修復後が楽しみな作品と感じました。


本作品に使用されている紙は唐紙(とうし)です、やや黄土色の味わいのある紙です。


画像では墨で描かれた双鯉や水波紋が鮮明に見えますが、修復前の御軸は全体の煤汚れで上部の水波紋は肉眼では不鮮明でした。煤色も全体に濃く唐紙(とうし)であるか、画箋紙なのか判別しにくい状態でした。


染抜き前の御本紙。部分。

【上画像は洗い桶に御本紙を養生シートで包み肌裏を剥がした終えた状態】

御本紙の上部の濃い汚れは本紙と肌裏が剥離した結果発生した煤ムラです。
このように部分的な濃い煤と全体の煤汚れとを均一に染抜きするのは、作品が墨絵の紙本でも難しい作業です。

”過マンガン酸カリ・亜硫酸水素ナトリュウム”での漂泊の危険性
↑別記事になっていますご覧ください。


上記事中の漂泊なら30分位と早く出来ますが、絵の具・墨・朱印の流出、アルカリ繊維となり御本紙の繊維溶解で唐紙(とうし)が持つ本来の色合いも漂泊で失い、真っ白となります。何より大切な御本紙に大きなダメージを与えます。


弊店の煤抜き作業は漂泊は行わず、時間を掛け丹念に洗浄することで汚れを除去します。

修復後、 上部

弊店では煤抜き修理に掛かる前に、墨・絵の具に膠等で定着作業を行い、朱印にも定着作業を行います。これらを丹念に行なうことで水や薬品で御本紙を洗浄しても絵の具等の流出は起こりません。


【夜間蛍光灯の下で撮影した為、画像では白く見えますが、実物は唐紙の薄黄土色に仕上がっています。】

 

 

<唐紙(とうし)> 肌裏剥離の煤ムラのしみ抜き

 

〖欠損部の補筆〗

上の画像は補筆前。

画面左鯉の背景の縦に、直線状の墨欠損部分があります。
これは御本紙に縦に折れがあり、御軸を巻き解きすることで本紙が擦れ微細に本紙が欠損したものです。また、鯉の胸鰭に小さな欠損もあります。

 

 


下の画像は補筆完了。

単に補筆と言っても筆で線を引くように書くのでは無く。墨を極少量含ませた筆で点で埋めていくように補います。使用する墨も作品に使われている古墨に最も近いもを選定します。

 

 

御軸修復後の画像

 

【使用裂地】

一文字:西陣正絹合金襴「渦観世水」紋
中廻し:西陣正絹上緞子「水流波」紋
天地 :正絹二丁無地

 

【御本紙と裂地の取り合わせ】

古墨で描かれた勇壮な双鯉と波の動きを引き立てる、寒色の緞子「水流波」紋を中廻しに選び、一文字には「渦観世水」紋を選びました。 

画像3枚目(修復後 上部)をご覧ください。
お仕立は簡易柄合わせですが、御本紙と切り継ぐ一文字金襴の柄や中廻しの柄、天地の無地に至るまで柄や糸が真一文字に通るように裂地を裏打ち裁断し、切り継いでいます。これらの作業を丁寧に行うことで御軸の品格を高めます。

一文字「渦観世水」紋

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